これを説明するために、正常細胞から癌細胞への多段階進行説が生まれた。
この説によれば、ひとつの正常細胞が癌細胞になるまでには、ただひとつの異常ではなくて数多くの異常が必要である。
これらの欠陥の大部分は遺伝的な事故であり、これらが細胞のDNAに影響を及ぼして正常な制御機構から少しずつ細胞を解き放してゆき、最後にこれらの変化がすべて合計された結果が完全に無政府状態の癌細胞なのであるという。
関与する細胞のタイプにかかわらず、癌の半数以上において、癌抑制遺伝子の破壊がこのような遺伝的事故のひとつであり、またウイルス関連腫傷においては、腫傷ウイルスによる感染がもうひとつの遺伝的事故である。
これによって外来遺伝子の細胞への侵入が可能になり、細胞の制御機構が不安定にされるのである。
ウイルス感染は、それ自体では、細胞を無制限の増殖へと駆りたてるに十分でないが、それにもかかわらず、癌に至る出来事の連鎖に欠くことのできないひとつの環である。
ゆえに、腫傷ウイルスがそれに関連した癌よりもはるかに多く存在する理由は、要求される後天的異常のすべてがひとつの細胞に存在する機会がきわめて小さいということである。
また、いくつかの腫傷が地理的に制限されている理由は、多くの場合、腫傷の発現に要求される二つ以上の因子がそうした地域に同時に存在することである。
たとえば、EBVは非常にありふれていて世界の人口の約九五パーセントに感染しているが、バーキットリンパ腫発現の補因子のひとつである全域地方病性マラリアは、赤道アフリカとパプア・ニューギニアにしか存在しない。
したがって、それらの地域だけにバーキットリンパ腫は発生するのである。
この特殊な腫傷では、ひとつの染色体スイッチにかかわるひとつの遺伝的事故もまたきわめて重要である。
細胞オンコジーンを含む、第8染色体の一片がたまたま第叫染色体に再癒合(転座)すると、その結果として00は永久にスイッチオンの状態になり、細胞分裂する側に有利に作用することになる。
先に議論したように、「腫傷ウイルス=癌」の方程式は余りに単純である。
そこで、バーキットリンパ腫の場合には、これまでに三つの本質的な出来事(異常)が確認されており、それを次のように書くことができる。
EBV+マラリア+同調節解除=バーキットリンパ腫。
さらにいくつかの異常がおそらく貢献しているであろうが、まだ確認されてはいない。
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